筆記具を正しく持てている人は少ないようです。
書き方・持ち方アドバイザーの橋爪秀博先生は、1594名の鉛筆の持ち方を調査し、その中で正しい持ち方をしている人は4%だったことを報告しています。※著書:書く姿勢・持ち方を甘く見てはいけない―持ち方を診断して、直しませんか参照
正しい持ち方ができるようになれば、ペン先がしなやかに動くようになるので、筆圧の変化をつけられるようになったり、とめ・はね・はらいが書きやすくなったりして、それだけで美文字へ一歩近づくことができます。
そこで今回は
①一般的に言われている正しいペンの持ち方・動かし方について
②正しい持ち方ができるようになる指のトレーニング
③安定した線を書けるように持ち方を調整する方法
上記3点についてお伝えします。
まずは正しい持ち方ができているかチェック
普段の持ち方でペンを持って、ペン先を自分に向けてみましょう。
親指、人差し指、中指の3本で三角形ができていればOKです。
正しい持ち方で持つと3本の指で三角形ができる |
この持ち方ができると3本の指を使って上手にペンをコントロールできるようになります。
もし三角形ができていなければ持ち方を間違えている可能性があります。
以下を参考にチェックしてみましょう。
正しい持ち方
基本はこの持ち方になります。
正しい(望ましい)ペンの持ち方 |
ポイントは
①3本指でバランス良く持つ
②第2関節と第3関節の間で支える
③親指の横に隙間がある
の3つです。
以下で具体的に説明していきます。
①親指、人差し指、中指の3本でバランス良く持つ
にぎり込まないように注意し、つまむイメージで柔らかく持ちます。
慣れるまでは「くるりん法」(青山浩之先生が考案した誰でも簡単に適切な持ち方ができる方法)が便利です。※DVD付き 大人の美文字が書ける本参照
「くるりん法」
ペン先を自分側に向け、半分ぐらい机から出しておく。
ペンの先端から3㎝ぐらいの位置を親指と人差し指でつまむ。
そのまま持ち上げ中指でペンを押すようにして回転させる。
これで正しい持ち方になります。
②人差し指とペンの軸が当たる位置は第2関節と第3関節の間ぐらい
ペンを持つときはペンの角度が60°になるのが望ましいと言われています。
人差し指の第2関節と第3関節の間でペンの軸を支えるようにするとペンの角度が自然と60°くらいになります。
③親指の横に隙間がある
ここに隙間がないとペンの動きが制限され、はねやはらいが書きにくくなります。
ここに隙間をつくる |
手首の固定について
手首を固定すると安定した線を書けるようになります。
ここを固定します |
手の小指側の側面を机に固定しています。
机に触れているのはこの部分です |
小指は浮かせて書くと長い線を引きやすくなりますが、細かい字を書くときは少し紙に触れていても大丈夫です。
手首を固定しても線が安定しない場合は、反対の手を使って固定を強めてみましょう。
左手で手首を支える |
こうすることで安定した線を引けるようになります。
慣れるまではこのように練習していきましょう。
ペン先のポジション
ペン先が指先より上にでていれば大丈夫です。
ペン先が指先より上に出ている正しいポジション |
ペン先が指先より下にきて自分の方を向いている場合は間違ったポジションです。
ペン先が指先より下になっている誤ったポジション |
指や手首を過度に曲げたり巻き込んだりしていないか確認しましょう。
正しいペンの動かし方
正しい持ち方ができている人は主に指をグーパーする動き(手指の屈曲・伸展)と手首をワイパーのように動かす動き(手関節の橈・尺屈)を組み合わせて字を書きます。
各指の役割
3本の指には以下のような役割があります。
・親指(母指):主に横画を書く時に使用する
・人差し指(示指):主に縦画を書く時に使用する
・中指(中指):横画や縦画の制御・左上方向へのはねなど
点画の書き方
点画を書く時の手指の動きは以下のようになります。
縦画の書き方
正しい持ち方で構え、そこから手指の力を緩めながら指を少し伸ばしてペン先を紙にのせます。
そこから指を曲げる動きで書きます。
主に人差し指の第2関節(PIP関節)を使います。
縦画の書き方 |
横画の書き方
正しい持ち方で構え、手の豆状骨(とうじょうこつ:小指側付け根の骨)を机に固定します。
ペン先を紙の左側へつき、豆状骨を支点としたワイパーのような動きで右方向へペンを動かして書きます。
横画は主に手首の動きを使って書きます。
横画の書き方 |
※豆状骨の場所
手首の小指側で一番出っ張っている骨が豆状骨 |
ここが豆状骨 |
円の書き方
上記縦画・横画の動きに中指での制御が加わることでより自由度の高い動きが可能となります。
指の力を適度に抜いて、指先を大きく動かすほど大きな円を書くことができます。
円の書き方 |
よくある間違った持ち方
人差し指折り曲げ持ち |
人差し指(示指)の第1関節(DIP関節)が反り返り、第2関節(PIP関節)を過度に折り曲げた持ち方です。
この持ち方では人差し指の動きが制限されてしまいます。
指の力を緩め、人差し指の先が親指よりも鉛筆の先端側にくるようにすると正しい持ち方に修正することができます。
望ましくない持ち方には他にも様々なものがありますが、どれも指に力が入りすぎて筆圧が強くなる傾向があります。
また3本指を自由に動かすことができないため、手首や肘の動きを使って書くことになり、書くスピードが遅くなる傾向があります。
正しい持ち方に慣れるための手指エクササイズ
正しい持ち方に変えた直後は、持ち方に慣れるまで少し時間がかかります。
指のトレーニングは持ち方に慣れるまでの期間を短くする効果が期待できます。
3本の指でペンを自由自在に動かすエクササイズ
ペン軸回転運動①
人差し指と親指でペンを転がします。
ペンの軸を傾けないように意識して動かします。
親指と人差し指の協調性を高めます。
ペン軸回転運動②
ペンを持ち、親指と人差し指・中指の動きでペンを転がします。
3本指の協調性を高めます。
3指屈伸往復運動
親指、人差し指、中指でペンの頭を持ちます。
指を曲げたり伸ばしたりしながらペンの先端と頭側を往復します。
3本指の協調性・グリップ力(ペンの安定性)を高めます。
指先の運動だけでなく、正しい姿勢も同時に意識しておきましょう。
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自分なりに持ち方を調整する方法
正しい持ち方で書きにくい場合、以下の方法で持ち方を微調整していくと書きやすくなるかもしれません。
安定性を高めたい場合
正しい持ち方を少し崩して固定する部分を増やします。
例えば手首の小指側→手のひらの小指側→小指→薬指と、机上に固定する部分を増やしていきます。
極端に安定性を高めた持ち方 薬指まで机に固定しているため安定性は高いが、ペンを動かせる範囲はかなり狭い |
このように固定する部分を増やすとペンを安定して動かすことができるようになります。
初心者や不器用な人はこのように安定性を高めた持ち方にすれば、真っ直ぐ安定した線を引けるようになるかもしれません。
しかし、安定性の高い持ち方では線を引ける範囲が狭くなるため、大きめの字を書く時には適しません。
また、手首より末端をテーブルに固定してしまうと手首の動きが制限されてしまうため、長い横画や右払いなど、手首の動きを伴う点画を書くのは難しくなります。
線質は硬く、ペンを動かす方向によっては少々ぎこちない線になります。
上記のようなデメリットもあるため、どうしてもの時(例えば訓練だけでは改善できない手の震えがある場合など)に用いる代償手段として考えていただけるといいと思います。
運動性を高めたい場合
動かす範囲を広げたい場合は逆に固定する部分を減らしていきます。
薬指→小指→手のひらの小指側→手首の小指側と固定を解除していくと、運動性が高くなります。
運動性を高めた持ち方 手首より末端は浮かせているため動きの自由度が高い |
運動性が高いと線を引ける範囲が広くなり、線質は比較的柔らかくなります。
しかしその反面、動きを制御(コントロール)できなければ不安定な線になってしまいます。
そのため初心者や不器用な人にとっては難易度が高い持ち方になります。
今まで安定性を高めた持ち方をしていた場合、運動性の高い持ち方に変えるには少し訓練が必要になると思います。
持ち方を微調整して最適なバランスをみつける
上で説明した安定性と運動性のバランスについて、イメージ図を用いてさらに詳しく説明していきます。
パターン①安定した線を書けない
現在、なんらかの事情で線を真っ直ぐに書けないという方は下の図のような状態です。
安定性(stability)が低い状態 |
安定性(stability)が低い状態なので、持ち方による安定性を加えることでバランスが整い、今よりも上手く書けるようになるかもしれません。
以下のようなバランスになるよう、安定性の高い持ち方に修正していきます。
持ち方による安定性を追加 |
パターン②ペンを動かす時に書きにくい方向がある
ペン字歴が長くなり、まっすぐ安定した線を書けるようになってきた。
でも大きく書く時や、ペンを動かす方向によっては書きにくかったり、線が不安定になったりする。筆圧が強く線質がぎこちない。
このような方は以下のように説明できます。
運動性(mobility)が低い状態 |
現在、まっすぐ安定した線を書くことができるので安定性は高い状態だと判断できます。
しかし、ペンを動かせる範囲が狭く、線質にぎこちなさがみられることから正しい持ち方ができていない可能性があります。(握り込んだ持ち方になっている可能性がある)
正しい持ち方は握り込んだ持ち方と比べ運動性が高いので、正しい持ち方を意識することで今よりも大きくスムーズにきれいな線を書けるようになるかもしれません。
下の図のようなバランスになるよう、持ち方を修正していきます。
正しい持ち方で運動性を向上 |
状況によって、小さい文字を書く場合は安定性を高めた持ち方、大きい文字を書く時は運動性を高めた持ち方と使い分けることもできますし、初心者のうちは安定性を高めた持ち方、上達したら運動性を高めた持ち方と、段階づけしていくこともできます。
色々試してみてください。
補足-ペンの動かし方は諸説ある-
横浜国立大学教授の青山浩之先生は
「手のひらの側面を机の上にピタッとつけて手首を固定して書くと、ペン先が安定するだけでなく、ペン先を柔らかく、かつ細かく動かせるようになる」
「3本の指が協力することで、自在にペンを動かせるようになる」
と、手首を固定して書く方法を推奨されています。(著書:“きれいな字”の絶対ルールより)
しかし、書道家の高宮暉峰先生は
「3本の指だけでボールペンを支えていると、手の力は腕の上側にだけ伝わり、肩、目へと負担をかけていきます」
「肘も手も腕の一部であり連動するのが自然ですから、難しいことを考えずにどちらも固定させないことが重要」
と、青山先生とは異なり、手首を固定せず肘を動かして書く方法を推奨されています。(著書:まっすぐな線が引ければ字はうまくなるより)
つまり書き方・ペンの動かし方は専門家によって様々な見解があり、何か一つ絶対的な正解があるわけではないようです。
私の場合、手首を固定する方法が書きやすいので、今回の記事は手首を固定する派の立場で書いています。
まとめ
今回の記事では
①一般的に言われている正しいペンの持ち方・動かし方について
②正しい持ち方ができるようになる指のトレーニング
③安定した線を書けるように持ち方を調整する方法
の3点についてお伝えしました。
記事の中でもお伝えしたように、正しい持ち方・書き方には諸説あります。
今回紹介した持ち方は様々な書籍を調査し、それぞれの著者の先生が「正しい持ち方」として紹介されていたものをまとめたものです。
そのため私も便宜上「正しい持ち方」として紹介させていただきましたが、ペンの持ち方・書き方は人それぞれあり、「書きやすい」というのも主観的な感覚になります。
そう考えると、本当は「正しい」とか「書きやすい」という表現ではなく、「望ましいと考えられる」というような表現の方が適しているのかもしれません。
手の大きさ、手指の関節の柔軟性、ペンをつまむ力、押さえる力、器用さなど、人間は人それぞれ個性があります。
一人一人が自分の特性を理解して、自分に合った望ましい持ち方を見つけていけば、それが各人にとっての正解になるのかもしれません。
ペンの持ち方って本当に奥が深いんですね。
ちなみに記事の冒頭で橋爪先生の「持ち方を甘くみてはいけない」という本を参考書籍として紹介させていただきました。
タイトルは少々独特で主張強めな印象がありますが、肝心の内容は筆記具の持ち方について詳細に解説された良書となっております。
作業療法士(リハビリの専門職)が書いた書籍を参考にして書かれているため、解剖学など医学的な内容も一部含まれており、幅広い知見が得られると思います。
よかったらチェックしてみてください。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読みいただきありがとうございました。
その他参考図書
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